アニメやドラマを見ていて、「この場所、実際に行ってみたい」と思ったことはありませんか。
主人公が歩いていた駅前、友達と話していた神社の階段、海沿いの道、何気ない商店街。
作品の中では数秒しか映らない場所でも、ファンにとっては急に特別な場所になります。
筆者も以前は、聖地巡礼を「ファンが写真を撮りに行く趣味」くらいに見ていました。
もちろんそれも間違いではありません。
ただ、調べていくと、それだけでは説明しきれない広がりがあります。
ファンが現地に行けば、電車に乗る。ご飯を食べる。お土産を買う。遠方なら泊まる。限定グッズやスタンプラリーがあれば参加する。
SNSに投稿すれば、別のファンがそれを見て「自分も行きたい」と思う。
作品の人気が、地域の人の流れやお金の流れを変えることがあります。
聖地巡礼は、単なるファン行動ではなく、観光、地域PR、グッズ、イベント、インバウンドまで広がるビジネスの入口にもなっているのです。
本記事では、聖地巡礼がビジネスになる仕組みから、実際に地域を動かした事例、長く続く聖地巡礼に必要なことまで紹介します。
そもそも“聖地巡礼”とは何か?
聖地巡礼とは、アニメ、マンガ、映画、ドラマなどの舞台やモデルになった場所を、ファンが実際に訪れる行動のことです。
もともと「聖地」という言葉には宗教的な意味がありますが、
エンタメの文脈では、ファンにとって特別な意味を持つ場所を指すようになりました。
面白いのは、有名な観光地だけが聖地になるわけではないところです。
普通の駅、よくある住宅街、地元の商店街、学校の前の坂道、海沿いの堤防。
作品に出てくる、それまでは通り過ぎていた場所でも、
物語と結びついた瞬間に、ファンにとってはわざわざ行く理由のある場所になります。
普通の観光は、「きれいな景色を見たい」「有名な店に行きたい」という動機が中心です。
聖地巡礼の場合は少し違います。
「あのキャラクターがここにいた」「あの場面と同じ景色を見たい」という気持ちが出発点になります。
つまり、聖地巡礼は作品の世界に入る体験です。
場所そのものが、ファンにとってはグッズのような価値を持つこともあります。
写真を撮るだけでなく、その空気を感じたい。
作品の記憶を、自分の体験として持ち帰りたい。
そこに普通の観光とは違う魅力があります。

なぜ聖地巡礼はビジネスになるのか?
地域にお金が落ちる
一番分かりやすいのは、地域にお金が落ちることです。
ファンが現地に行けば、交通費が発生します。駅からバスに乗るかもしれません。
お昼を食べる。カフェに入る。お土産を買う。遠方から来る人ならホテルや旅館に泊まります。
しかも観光は、目的地だけで終わりません。
聖地の神社を見に来た人が、近くの商店街で買い物をする。
駅前の飲食店に入る。ついでに周辺の観光地にも足を延ばす。
こうして、作品をきっかけに地域の中で回遊が生まれます。
グッズやコラボ商品との相性がいい
グッズやコラボ商品との相性もかなり良いです。
限定アクリルスタンド、クリアファイル、ポストカード、コラボメニュー、スタンプラリー、記念切符。
現地でしか手に入らないものは、ファンにとって強い動機になります。
特に「ここに来た記念に買う」という感覚は大きいです。
同じグッズでも、ネットで買うのと、実際に作品の舞台で買うのでは少し意味が変わります。
場所の記憶と一緒に残るからです。
地域の認知度アップにつながる
地域の認知も上がります。
今まで旅行先として考えたことがなかった街を、作品を通して初めて知る。
SNSで写真を見て、別の人が興味を持つ。
自治体が大きな広告費をかけなくても、ファンの投稿が自然なPRになります。
作品をきっかけに地域を知ってもらうことで、これまで訪れる機会がなかった人にも、その街の魅力が伝わっていきます。
リピーターを生み出せる
うまく設計できれば、一度行って終わりにもなりません。
イベント、続編、劇場版、声優イベント、スタンプラリーの更新、記念日企画など、作品や地域に関連した新しいイベントを用意することで、訪れる理由を増やせます。
例えば、一度聖地を訪れたファンが、次はイベントに合わせて訪れる。
その後、スタンプラリーの更新や記念日企画をきっかけに、また足を運ぶことも考えられます
このように、訪れる理由が増えれば、ファンは何度もその地域に足を運びます。
聖地巡礼が地域を動かした代表例
鷲宮×『らき☆すた』|聖地巡礼の先駆け
聖地巡礼の先駆けとしてよく語られるのが、埼玉県久喜市鷲宮と『らき☆すた』の事例です。
鷲宮神社やその周辺が作品の舞台としてファンに注目され、商工会がグッズ販売やイベント、コスプレ祭りなどを行いました。
ここで大事なのは、ファンが自然に訪れ始めた動きを、地域側がちゃんと受け止めたことです。
ただ「人が来ている」で終わらせず、地元の商店や祭りと結びつけた。
作品の人気を、地域全体の盛り上がりにつなげた代表例です。
沼津×『ラブライブ!サンシャイン!!』|街全体で作品を受け止める
静岡県沼津市と『ラブライブ!サンシャイン!!』も、かなり分かりやすい成功例です。
沼津市の観光サイトでは、作品のロケ地を巡るコースや、スタンプ、ふるさと納税と組み合わせた企画が紹介されています。
沼津の面白さは、街全体で作品を受け止めているところにあります。
駅、港、商店街、内浦地区、飲食店などが、ファンの回遊ルートになっています。
アニメの舞台を見に来た人が、地元の食や景色にも触れる。
そこから街そのものを好きになる人も出てきます。
飛騨市×『君の名は。』|作品の記憶を観光につなげる
映画『君の名は。』のモデル地として知られる岐阜県飛騨市も、作品と観光が結びついた例です。
飛騨市の公式観光サイトでは、公開から時間が経った今も、モデルとなった街を巡るコースが紹介されています。
大ヒット作の場合、公開直後に人が集まるのは想像しやすいです。
けれど、本当に強いのは、その後も観光導線として残ることです。
映画を見た時の記憶と、実際の町並みが結びつく。
ファンにとっては、何年経っても「行ってみたい場所」であり続けます。
下北沢×『ぼっち・ざ・ろっく!』|地域とファンが共存するために
一方で、『ぼっち・ざ・ろっく!』と下北沢のように、人気が出た後の受け入れ方が話題になるケースもあります。
公式や関係先から、団体での来訪や週末・連休の撮影を控えるよう案内が出たことがあります。
これは悪い話として片づけるより、聖地巡礼が大きくなった時に必要な視点として見たいところです。
人が来ることは地域にとってチャンスです。
ただ、住民の生活や店の営業に負担がかかると長続きしません。
ファン、地域、作品側が気持ちよく続けられるルール作りも、聖地巡礼ビジネスの一部です。

聖地巡礼を“一過性のブーム”で終わらせないために必要なこと
聖地巡礼は、作品がヒットした直後に一気に盛り上がります。
ただ、その熱がずっと続くとは限りません。
一過性で終わる地域もあれば、何年もファンが訪れ続ける地域もあります。
では、聖地巡礼を長く続けていくためには何が必要なのでしょうか。
ここでは、地域が取り組むべきポイントを紹介します。
ファン任せにせず、巡礼しやすい環境を整える
一つは、ファン任せにしすぎないことです。
最初はファンが自発的に場所を探し、写真を撮り、SNSで共有します。それはとても大きな力です。
しかし、導線が分かりにくかったり、私有地や生活道路に人が集まりすぎたりすると、地域とのズレが生まれます。
そのため、巡礼マップや公式スポット、撮影ルール、注意事項があると安心です。
ファンにとっても、「ここは行っていい場所なのか」「写真を撮っていいのか」が分かる方が動きやすくなります。
地元の店や交通とつなげる
地元の店や交通とつなげることも大切です。
聖地を見て帰るだけでは、地域に落ちるお金は限られます。
飲食店、土産店、商店街、バス、鉄道、宿泊施設と結びつけることで、ファンの行動は広がります。
そこで、作品の世界観を壊さないことも忘れてはいけません。
何でもコラボすればいいわけではありません。
キャラクターの扱い方、作品の雰囲気、ファンの空気感を雑に扱うと、すぐに違和感が出ます。
地域住民にとっても意味のある形にする
地域住民の理解も必要です。
観光客が増えれば、混雑や撮影マナーの問題も起こります。
だからこそ、地域の人にとっても意味のある形にすることが大事です。
お店の売上につながる。地域の名前が知られる。地元の人も少し誇らしく思える。
そういう状態になれば、聖地巡礼は長く続きやすくなります。

エンタメ業界志望者が知っておきたい“聖地巡礼ビジネス”の見方
聖地巡礼は、アニメ制作会社や映画会社だけの話ではありません。
出版社、テレビ局、広告会社、旅行会社、鉄道会社、自治体、商店街、グッズ会社、イベント会社など、かなり多くの業界が関わっています。
アニメ会社や映画会社なら、作品の舞台や世界観をどう地域と結びつけるか。
テレビ局や制作会社なら、ドラマや番組のロケ地をどう観光価値に変えるか。
出版社なら、原作IPを地域展開へ広げられるか。
広告会社なら、自治体や企業を巻き込んだキャンペーンを設計できるか。
旅行会社は、ツアーやモデルコース、宿泊プランを作れます。
鉄道会社なら、ラッピング車両、記念切符、駅広告、スタンプラリーと連動できます。
自治体は、地域の観光資源や商店街と作品をつなげる役割を持ちます。
就活でこのテーマを話すなら、「聖地巡礼が好きです」だけで終わるのは少しもったいないです。好きな気持ちは大事です。
ただ、そこにビジネスの視点を足すと、かなり見え方が変わります。
たとえば、「聖地巡礼はファンの趣味に見えますが、作品の世界観を入口に、観光、地域消費、イベント、グッズ、交通、インバウンドまで広がるIPビジネスだと捉えています」と話せると、作品と地域の関係まで見ている印象になります。
エンタメ業界では、作品を作る力だけでなく、作品をどう広げるかも大事です。
聖地巡礼は、その広げ方を考えるうえでかなり分かりやすい題材です。
まとめ
聖地巡礼は、ファンが作品の舞台を訪れるだけの行動ではありません。
地域に人を呼び、飲食、宿泊、交通、グッズ、イベント、観光PRにつながるビジネスです。
『らき☆すた』の鷲宮、『ラブライブ!サンシャイン!!』の沼津、『君の名は。』の飛騨市のように、作品と地域がうまく結びつくと、街そのものがファンにとって特別な場所になります。
ただ、長く続けるには、ファンの熱量だけに頼りすぎないことも大切です。
地域の人の暮らしを守りながら、店や交通、観光、イベントと自然につなげる。
作品の世界観を大事にしながら、地域ならではの体験を作る。
好きなアニメやドラマの舞台を訪れる時は、ただ写真を撮るだけでなく、その街の店に入り、食べ物を味わい、地域の人の暮らしにも少し目を向けてみてください。
そこまで含めて楽しめると、聖地巡礼はファンにとっても地域にとっても、もっと長く続く文化になります。
