「直木賞」と「芥川賞」は、日本の文学賞のなかでも特に知名度が高く、毎年多くの読者から注目を集める2つの賞です。受賞作が発表されると書店に特設コーナーが設けられ、映画やドラマなどの映像化につながる作品も少なくありません。
2026年7月に発表された第175回では、芥川賞に小砂川チト『ゾンビ回収婦』、直木賞に朝倉かすみ『けんぐゎい』が選ばれました。
今回は、直木賞・芥川賞の違いや2026年の受賞作・候補作、歴代の人気作品、映画・ドラマ化された作品まで徹底解説。
さらに、テレビや映画、出版などメディア業界を目指す人が両賞に注目すべき理由も紹介します。

直木賞・芥川賞とは
直木賞と芥川賞は、公益財団法人日本文学振興会が選考・授賞を行う文学賞です。
どちらも1935年、文藝春秋の創業者・菊池寛によって制定されました。
芥川龍之介と直木三十五という、菊池寛とゆかりの深かった2人の作家の名前が賞名になっています。
一見すると似た文学賞ですが、対象となる作品には大きな違いがあります。
芥川龍之介賞(芥川賞)は、雑誌などに発表された新進作家による「純文学」の中・短編作品が対象。
一方、直木三十五賞(直木賞)は、新進・中堅作家による「エンターテインメント」の単行本、つまり長編小説や短編集などが対象です。
簡単に言えば、
■芥川賞=純文学の新人・若手作家による中・短編
■直木賞=エンターテインメント性のある長編・短編集
という違いがあります。
両賞とも年2回選考が行われ、対象期間中に発表・刊行された作品から候補作が選ばれ、選考委員による討議を経て受賞作が決定します。
受賞作が必ず1作品とは限らず、複数作品が選ばれる場合や「受賞作なし」となる場合もあります。
なお、両賞とも公募形式ではありません。
また、受賞後には作品そのものだけでなく、著者の人物像や創作背景にも注目が集まります。
テレビ番組やニュース、Webメディアなどで受賞者のインタビューが取り上げられることも多く、文学賞が一つの「メディアイベント」になっている点も特徴です。

2026年受賞作を紹介
芥川賞は小砂川チト『ゾンビ回収婦』
第175回芥川賞に選ばれたのは、小砂川チトさんの『ゾンビ回収婦』です。
小砂川さんにとっては、『家庭用安心坑夫』『猿の戴冠式』に続く3回目の芥川賞候補で、3度目のノミネートで受賞を果たしました。
作品では、AIに仕事を奪われて解雇された女性が、ゲーム機のヘッドセットを装着し、仮想現実の世界で「ゾンビ回収婦」として働き始める姿が描かれています。
現実社会とVR空間を行き来する設定を通して、AIによる仕事の代替や、人間が働く意味など、現代的なテーマを扱った作品です。
今回の芥川賞候補には、小砂川チト『ゾンビ回収婦』のほか、鈴木凉美『悪い血』、仁科斂『丹心』、村司侑『ソリティアおじさんがいた頃』、八木詠美『アンチ・グッドモーニング』が選ばれました。
選考では複数作品が最終候補として残り、『ゾンビ回収婦』については、虚構の世界を組み立てる力強さなどが評価されたと報じられています。
直木賞は朝倉かすみ『けんぐゎい』
第175回直木賞を受賞したのは、朝倉かすみさんの『けんぐゎい』です。
朝倉さんにとっては、『平場の月』『よむよむかたる』に続く3回目の直木賞候補。
3度目の候補入りでの受賞となりました。
『けんぐゎい』は江戸時代を舞台に、容姿や身分などによって社会の「圏外」に置かれた女性たちの姿を描いた時代小説です。
姉妹や周囲の女性たちの人生を通して、当時の社会における女性の生きづらさや、自分自身の人生を切り開いていく強さを描いています。
第175回直木賞の候補には、朝倉かすみ『けんぐゎい』のほか、蝉谷めぐ実『見えるか保己一』、凪良ゆう『多類婚姻譚』、原田ひ香『#台所のあるところ』、若林正恭『青天』が選出されました。
特に話題になったのが、人気お笑いコンビ・オードリーの若林正恭さん。
初小説『青天』で直木賞候補となり、文学だけでなく、お笑い・テレビの世界からも文学賞が注目されるきっかけとなりました。
2026年1月に発表された第174回の芥川賞と直木賞
2026年1月に発表された第174回では、芥川賞が鳥山まこと『時の家』と畠山丑雄『叫び』のダブル受賞となりました。
一方、直木賞は嶋津輝『カフェーの帰り道』が受賞。
第174回の芥川賞候補には久栖博季『貝殻航路』、坂崎かおる『へび』、坂本湾『BOXBOXBOXBOX』などが、
直木賞候補には大門剛明『神都の証人』、葉真中顕『家族』、住田祐『白鷺立つ』、渡辺優『女王様の電話番』などが並びました。

歴代の人気作や候補作、映像化された作品を紹介
直木賞・芥川賞の魅力は、受賞発表の瞬間だけではありません。
過去には受賞後にベストセラーとなり、映画やドラマへと展開された作品も数多くあります。
『火花』又吉直樹
芥川賞作品のなかでも、特に社会的な話題となったのが、又吉直樹の『火花』です。
お笑いコンビ「ピース」の又吉直樹さんによる作品で、第153回芥川賞を受賞。
お笑い芸人が芥川賞を受賞したこと自体が大きなニュースとなり、文学賞を普段チェックしない層にも芥川賞の存在を広く知らしめました。
その後、Netflixでドラマ化され、2017年には菅田将暉・桐谷健太主演で映画化されています。
「文学×お笑い×テレビ・映画」という異なるエンターテインメント領域をつないだ作品としても注目すべき一冊です。
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『容疑者Xの献身』東野圭吾
直木賞受賞作から映画化された代表例が、東野圭吾の『容疑者Xの献身』です。
第134回直木賞を受賞した本作は、天才数学者・石神と、物理学者・湯川学を中心に展開する本格ミステリー。
2008年には福山雅治主演で映画化され、大きな話題となりました。
直木賞受賞後、映画化によってさらに幅広い観客へ作品が届いた代表例と言えるでしょう。
『蜜蜂と遠雷』恩田陸
2016年下半期の直木賞を受賞した恩田陸の『蜜蜂と遠雷』も、映像化された人気作です。
国際ピアノコンクールを舞台に、才能や音楽への情熱を持つ若者たちの姿を描いた作品で、2019年に松岡茉優、松坂桃李、森崎ウィン、鈴鹿央士らの出演で映画化されました。
文章だけでは伝えにくい「音楽」をテーマにした小説が、映画では演奏シーンや音響によってどのように表現されるのかという点でも興味深い作品です。
『ファーストラヴ』島本理生
第159回直木賞を受賞した島本理生の『ファーストラヴ』も映画化されています。
公認心理師の由紀が、父親を殺害した女子大学生・聖山環菜の事件を担当することから始まる物語です。
北川景子、中村倫也、芳根京子らが出演し、2021年に映画化されました。
社会的な事件を軸にしながら、登場人物の過去や心の傷を掘り下げていく作品で、直木賞作品のなかでも人間ドラマを重視した作品として楽しめます。
『何者』朝井リョウ
第148回直木賞を受賞した朝井リョウの『何者』も映画化された作品です。
就職活動を行う大学生たちを主人公に、SNSや人間関係、自己分析、他人との比較など、若者のリアルな心理を描きました。
2016年には佐藤健、有村架純、二階堂ふみ、菅田将暉、岡田将生、山田孝之らの出演で映画化。
「自分は何者なのか」というテーマは、就職活動だけでなく、SNS時代の自己表現にもつながる普遍的なテーマとして現在でも読み継ぎやすい作品です。
『まほろ駅前多田便利軒』三浦しをん
第135回直木賞を受賞した三浦しをんの『まほろ駅前多田便利軒』も、映画・ドラマ化された人気作です。
便利屋を営む多田と、そこに突然転がり込んできた高校時代の同級生・行天を中心に、さまざまな依頼を通して人々の人生を描いていきます。
瑛太、松田龍平の共演による映画版に加え、テレビドラマ化もされました。
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このように直木賞・芥川賞の作品には、受賞後に映画やドラマへ展開される作品が数多くあります。
実際、過去の両賞の受賞作には戦前から映画化された作品があり、文学と映画の関係は非常に長い歴史を持っています。

メディアを目指す人が読むべき理由
テレビ、映画、Webメディア、出版、広告などのメディア業界を目指している人にとって、直木賞・芥川賞は単なる「文学賞」ではありません。
作品がメディアを横断する過程に注目する
まず注目したいのが、一つの作品がどのようにメディアを横断していくのかという点です。
たとえば『火花』は小説からドラマ、映画へと展開され、『容疑者Xの献身』は小説から映画へと広がりました。
原作小説がヒットすれば映像化される――という単純な話ではなく、作品が持つ設定やキャラクター、テーマのどこに映像的な魅力があるのかを考えることが重要です。
また、文学賞の「候補作発表→受賞作発表→受賞者インタビュー→書店展開→映像化」という流れを追ってみると、一冊の本がどのようにニュースやコンテンツへ変化していくのかも見えてきます。
これはテレビ番組の企画を考える際にも役立つ視点です。
「人を惹きつける設定」から企画の作り方を学ぶ
文学作品には、テレビ番組や映画などの企画を考える際にも参考になる「強い設定」があります。
例えば『ゾンビ回収婦』なら、「AIに仕事を奪われた女性がVR世界でゾンビ回収の仕事をする」という設定だけでも、興味を引く企画のフックになります。
『火花』なら「売れない芸人と先輩芸人の関係」という設定があり、『何者』なら「就活中の大学生」というように、多くの人がイメージしやすい入口があります。
つまり、文学作品を読むことで、「人を惹きつける設定」「キャラクター」「テーマ」「意外性」の作り方を学ぶことができます。
原作と映画・ドラマを見比べる
さらに、原作と映画・ドラマを見比べるのもおすすめです。
「小説では主人公の心の中をどう表現しているのか」
「映画ではその感情をどんな演技や映像で見せているのか」
「なぜ原作の設定が変更されたのか」
こうした視点で作品を比較すると、脚本家、放送作家、ディレクター、プロデューサーなどがどのように物語を別のメディアへ翻訳しているのかを学べます。
文学賞を「受賞した本を読むためのもの」と考えるだけでなく、コンテンツが生まれ、評価され、広がっていく仕組みを研究する材料として見ると、メディア業界を目指す人にとって非常に面白い存在になるでしょう。
まとめ
直木賞と芥川賞は、日本文学を代表する2つの文学賞です。
芥川賞は新進作家による純文学の中・短編、直木賞は新進・中堅作家によるエンターテインメント作品の長編・短編集などが対象となっています。
2026年上半期の第175回では、芥川賞に小砂川チト『ゾンビ回収婦』、直木賞に朝倉かすみ『けんぐゎい』が選ばれました。
過去にも『火花』『容疑者Xの献身』『蜜蜂と遠雷』『何者』など、多くの人気作が誕生し、映画やドラマへ展開されています。
メディア業界を目指す人にとっても、文学賞は「面白い作品」を知るだけでなく、企画の作り方やキャラクター設計、原作を映像へ変換する方法を学べる絶好の教材です。
まずは気になる受賞作を1冊手に取り、原作と映像作品を比較してみるところから始めてみてはいかがでしょうか。
