ADの離職率はやっぱり高い?ADの離職理由を紹介

アシスタントディレクター(以下、AD)は、テレビ番組を制作するうえで欠かせない役職のひとつです。ディレクターの指示に従って、縁の下の力持ちとしてさまざまな業務を担います。 ADはディレクターにステップアップするためには、下積みとして必要な経験です。しかし、業務内容が多岐にわたることから、「忙しい」「離職率が高い」などのイメージが生まれやすい仕事でもあります。 今回は、ADの離職率や主な理由、AD経験を活かせる転職先について解説します。


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ADの離職率は高いといえる

ADの離職率は、ほかの業種と比べると高いといえます。入社したADのうち、ほとんどがディレクターや、AD経験が必須なプロデューサーになることを諦めて離職してしまいます。経験者の口コミの中には、「離職率は50%くらい」との声があるほどです。

厚生労働省が発表した入職・離職状況によると、情報通信業全体の離職率は令和3年時点で9.1%でした。(参考:厚生労働省「令和3年雇用動向調査結果の概況」)テレビ業界以外の産業も含めた数値であること、プロデューサーなどほかの職種も含めていることを考慮しても、ADの離職率は高い傾向にあることがわかります。

ADの転職率が高い主な理由

ADという下積みから晴れてディレクターになれば、特にバラエティ番組のディレクターは同年代のサラリーマンよりも高い収入になるケースもあります。さらに、テレビ業界の労働環境は働き方改革によって改善傾向にあります。

ADの仕事に興味をもっている方の中には、「多少キツくても、給料が高いなら頑張れそうだ」と考えている方も多いのではないでしょうか。しかし、一般企業よりも高い年収が期待できる一方で、離職率も高い傾向にある背景には相応の理由があります。

ADの多く(場合によっては2人に1人の割合)が転職を考える主な理由として、次の3つがあげられます。

不規則な生活になりがち

ADはディレクターの指示に従い、さまざまな業務にあたります。近年は、インターネットを利用した動画探しなどのリサーチ業務を担当するADも少なくありません。

クオリティを求めるあまりスケジュールが押していたとしても、決められた納期に番組制作を間に合わせなければならないため、ADも連勤が求められる場面も発生します。数ある業種の中でもADの連勤数は群を抜いており、業界全体の傾向として休みをとりにくくなっています。

始発出勤や終電で帰宅、場合によっては数日間泊まり込みなど、繁忙期には16時間労働が当たり前の生活になることもあります。

ただし、番組によって勤務時間は多少異なります。例えばバラエティ番組は、繁忙期に入ると16時間勤務もあり得る配属先です。一方、情報番組に配属された場合、必ずしも連勤になるとは限りません。

情報番組の場合、スタッフ数が多くシフト制で管理されているため、勤務時間の管理をこまかくできるのが特徴です。欠勤が出てもほかのスタッフでフォローしあえる環境が整っており、ADの1か月の総労働時間は190時間程度、休日も週休完全2日制というケースもあります。

納期などで精神的に追い詰められることが多い

ADは仕事内容や業務量、人間関係などさまざまな理由で精神的につらいと感じることがあります。中には、クオリティを求めるあまり、大変な指示を多く出すディレクターも存在します。

また、収録や生放送特有の緊張感に耐えられなくなり、転職を検討するほど精神的に追い込まれるADも中にはいます。

しかし、人間関係のトラブルに悩まされるのはテレビ業界のみではありません。どの職場にも合わない人・業務はあります。

テレビ業界は技術職なので、個性的な人と出会いやすいことも、テレビ業界ならではのトラブル理由です。スキル重視で採用される職場では、各人の個性がぶつかり合って人間関係がこじれやすくなります。

また、人間関係以外に、業務や結果に関する焦りなども、精神的な負担を感じる要因です。「取材交渉を成功させなければ」「OAに間に合うように許諾を得なくては」と、時間的に追い込まれる場面が多くあります。入社1年目から取材交渉のような「番組の顔」となる業務を振られるので、辛いと感じる方もいます。

ほかには繁忙期と閑散期の差が激しく休みが不規則だったり、休みの日にも緊急の業務で上司から連絡がきたりと、オンオフをつけるのが難しい点も離職が多い理由のひとつです。体力勝負な仕事と聞いてアクティブな業務をイメージしていた方の場合、デスクで行うリサーチや資料作成の時間が多いことにストレスを感じる可能性もあります。

昇格するまでに相応の下積みが必要である

ADは経験を積んだ後、ディレクターに昇格するのが一般的な流れです。本人の能力によっては早期で昇格できる場合もあり、仕事にやりがいを感じるポイントのひとつです。

一方で、本人の能力に関係なく取り巻く環境や運の悪さでスムーズに昇格できない場合もあります。大まかな目安は、昇格までにおよそ3~5年程度の下積み期間が必要です。

厳密には担当している番組によっても異なります。順当に経験を積み、本人の能力面も問題ない場合は、ディレクターへの昇格までに下記の期間を要します。

・バラエティ:5年以上
・情報・報道:3年程度

上記の下積み期間を終えても、上司や先輩から注目されなければ昇格できる確率は高くなりません。少しでも昇格できるように、「気がきく」「仕事が早い」と目に見えて評価されるように努力することが大切です。しかし、努力のわりに思うように結果を出せず、離職を考える方もいます。

【AD】離職後の転職先

テレビ業界の仕事は、ADをはじめ特殊な業務を担当することが多いのが特徴です。離職後の転職先で経験を活かしたいのであれば、自ずと業界や職種は絞られてきます。

ADの離職後に考えられる主な転職先は、次の3パターンです。

一般企業の広報へ転職する

一般企業の中にも、広報などADの経験を活かしやすい職種が見つかります。CMの映像制作会社なら、AD時代の番組制作経験など、実務で培ったスキルを活かせます。

「同じテレビ業界内で広報を目指す手段もあるのでは」と思いがちですが、容易ではありません。ADが番組の広報宣伝の担当者と関わる機会は多くはなく、さらに広報宣伝部とつながりのある会社に所属している派遣社員ではない限り、異動はほぼ無理でしょう。

また、番組制作時の縁を頼って広告代理店に転職する方法も現実的とはいえません。番組と広告代理店はつながりがあります。とはいえ、AD個人が広告代理店と接点をもつ機会はほとんどなく、関係者との人脈を作ることは困難です。

広報を目指すなら一般企業への転職がおすすめです。

番組制作会社の総合職へ転職する

テレビ番組の多くは、下請けにあたる番組制作会社が行っています。ADの経験を活かして社内や同業他社の総合職へ転職する方法もあります。

総合職は、経理や総務、人事などです。デスクワークが主となるため体力的な消耗が少なく、さらにAD時代に行った取材交渉などの電話応対スキルをはじめ、活かせる経験が多いのも魅力です。ADを2~3年程度経験していれば、一通りのビジネスマナーは身に付くためセカンドキャリアの候補に加えられます。

株式会社フォーミュレーションI.T.S.では、セカンドキャリアとしてAD時代のスキルや経験を活かした転職をサポートします。ADからテレビ局内のデスク(宣伝部、制作のデスクなど)への配属も可能です。

ほかにもインターネットテレビ事業などを手掛ける大手企業の中でも勤務時間が比較的安定している部署への転職や異動もご相談いただけます。

ほかの業界・業種の企業に転職する

テレビ業界や関連企業にこだわらない方は、まったく別の業界・業種に転職する選択肢もあります。AD時代の経験やスキルの多くは、直接的あるいは間接的にさまざまな企業で活かせます。

他業界への転職は、電話応対やスケジューリング、手配業務などADとして培ってきた力を活かせる仕事を中心に探すのがポイントです。

CMや動画投稿サイト、Web動画などの制作業務も、AD時代の技術を活用できます。一般企業のPR映像の編集部署など、社内で映像制作に携わる仕事を探すのもおすすめです。

ただし、ほかの業界・業種に転職すると、これまで続けてきた映像クリエイターとしてのキャリア形成を中断させてしまう可能性があります。

近年は働き方改革の影響もあり、多くの業界でホワイト化が進みつつあります。テレビ業界も、働き方が見直されている業界のひとつです。転職を考えるときは業界に残る選択肢も残しつつ、自分の理想に沿った職場を見つけましょう。

まとめ

ADは多忙なイメージがあり、実際に離職率も高い傾向にある職業です。しかし実際の勤務状況は、配属先のスタッフ数や番組内容、シフト制を導入しているか否かによって大きく異なります。

ADが転職を考える理由は、勤務時間のほかにも複数あげられます。多少の困難は下積み時代として受け入れるか、思い切って経験を活かせる業界へ転職するか、自身が描く将来像を考慮しつつ慎重に判断しましょう。