料理番組と聞くと「ADも料理ができないとダメなのかな?」と思う人も多いかもしれませんが、実はそんなことはありません!
料理を扱う番組のほとんどは、『フーディーさん』と呼ばれる専属のスタッフがいて、ADは料理以外の、様々な役割で番組を支えています。
この記事では、目玉焼きしか作れなかった元ADが、某お料理バラエティー番組での実際の経験をもとにADのリアルな仕事内容を徹底解説します。
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★check!!➡【グルメロケの裏側】フードコーディネーターとはどんなお仕事?
料理番組で料理をするのは誰?
料理を担当するのは『フードコーディネーター』
テレビに出てくるほとんどの料理を作っているのは『フードコーディネーター』(通称:フーディーさん)と呼ばれる専門スタッフです。
フードコーディネーターは番組で紹介するレシピの作成から調理、盛り付けまで料理に関する作業を一手に担います。
美味しく作るのはもちろんのこと、実際に演者さんなどに食べてもらうための安全面の管理や、収録の進行状況や段取りを気にしながら、ここぞ!というタイミングで“一番美味しそうに見える状態”の料理を完成させるなど、番組収録を助ける料理のスペシャリストなのです。
基本的にフーディーさんがメインとなって調理工程を進めてくれるため、ADが代わりに料理を作るということはあまりありません。
では、料理番組のADは何をしているのか?
料理を作らないからといって、ADの仕事が少ないわけではありません。
むしろ、料理番組こそADの動きが大きく左右する現場でもあります。
材料準備・仕込みのサポート
ADの重要な仕事の一つが食材まわりの準備です。
収録前にレシピをもとに必要な食材や調味料などの材料を確認し、買い出しや管理を行います。ただの買い出しと侮ることなかれ、これが意外と重要かつ大変な作業だったりします。

・レシピを元に必要な食材と分量の確認
収録中に買い物に行くわけにはいかないので、足りなくなったりすることがないように分量の見定めはかなり重要です。
収録では「物撮り」や「差し替え」など料理の現場ならではの特殊な工程が発生することもあります。
「物撮り」とは完成した料理を綺麗に撮るための作業で、収録後など、別途時間をとって撮影するため、実際に収録中に食べる分とは別でもう1セット必要となります。
「差し替え」とは収録をスムーズに進めるため、時間のかかる調理工程などを予め済ましたものに途中途中で交換する作業のことをいい、その工程までの分だけ余分に必要になったりします。
もし失敗したらと予備を備えることも必要ですが、かといって予算やフードロスの観点からとにかく多く買えばいいというわけでもありません。
「差し替えで出した分をそのまま物撮り用に回そう!」と言われたりすれば、何がどれだけ必要になるか脳内シミュレーションを重ね、買い出しリストを作るだけでも初めのうちは結構な時間がかかります。
・必要なものを用意するためのお店探し
特殊な食材があったりするとまずはそれを購入できるお店を探すところから。
放送日に合わせて収録は少し早い時期に行うことが多いため、<旬の食材>がテーマだったりすると、「ちょっとまだ置いてないねぇ…」と言われたり、
「〇〇という魚を丸々一匹用意して!」なんて言われた日には近くの魚屋さんに鬼のように電話をしてスマホの電話帳が魚屋さんだらけになったり、朝早くから市場へ繰り出してお目当てのものを探して練り歩いたりすることも。
何がどこで買えるか予め検討をつけたり、「あれはここで買って、帰りにあそこでこれを買って…」と効率よく回るために計画したり、闇雲に出かけるのではなく事前の準備が重要です。

・収録までの食材の保管や備品の管理
大量の買い出し食材は、「これを当日までどこで保管しよう…?」なんて冷蔵庫の前で呆然としてしまうほどの量になることも。
冷蔵庫に入りきらなければ事前にクーラーボックスを備品で借りておいたり、収録現場まで運びやすいように食材をまとめるボックスを作ったり、食材の管理もADの仕事の一つ。

また、食材だけでなく、調理道具や盛り付けのお皿なども準備が必要です。
例えば「料理を出す時によく見る銀のドーム状のやつ用意しといて」と言われて、「あれってなんて名前・・・?」と調べた経験があります。(※クローシュと言うそうです)
局の備品にあったので借りることで事なきを得ましたが、もし備品などでないものがあれば調達が必要になるため要注意です。

収録全体の段取りサポート
料理番組などの撮影の現場では、進行表や台本をもとに「今どこまで撮影が進んでいるのか」「次はどの工程を撮るのか」などを常に把握しておく必要があります。
例えばスタジオで「撮影がここまで進んだら料理を出す」というタイミングを明確に把握し、そのタイミングに合わせて料理ができるよう、フーディーさんと段取りを事前に相談しておきます。
一般的なスタジオ撮影では、調理中に発する音などに配慮して【きえもの室】と呼ばれる別室で調理を行うことが多いため、調理を担当するスタッフからは収録の様子を確認することができません。
なので、収録の進行状況を共有したり、完成した料理をスタジオに運んだりと段取りが重要になってきます。
スタジオの進行を取り仕切る演出ディレクターと相談して「このタイミングでスタジオに料理が用意されている状態にしたい」というのを明確にし、「これを作るのにこれくらい時間がかかるから、ここまで進んだら声をかけてほしい」などフーディーさんと事前に段取りを相談したり、収録のテンポが想定よりゆっくりだったり早くなったりした場合は、それを共有してタイミングを調整したりと、ADが各所との橋渡し役となり、全体の進行をサポートする必要があるため、段取りを逆算したり先読みしたりする力が大切です。
物撮り(料理撮影)でのADの仕事

先ほども少し触れましたが、料理番組の制作に欠かせない撮影の一つに「物撮り」という撮影があります。
「物撮り」とは番組で登場する料理のイメージカット的な役割となる映像を撮ることで、完成した料理を最も美味しそうな状態で撮影するために、料理やカトラリーの配置から、盛り付けや照り具合などが一番映える向きを確認したりします。
料理ができた瞬間に撮影ができるよう、予め同じサイズのお皿でカメラアングルを確認し料理を置く位置を決めておいたり、湯気が目立つよう背景を暗くしたり室温を下げたりと、現場では周到な用意や様々な工夫がされています。
カメラを通してテレビの前でも出来立て熱々の料理の温度感を伝えるために、撮影はスピード勝負。
料理は時間が経つとどんどん見た目が変わってしまうため、「一番美味しそうに見える瞬間」を逃さないようカメラマンと連携して撮影に挑みます。
箸上げ(手元ヨリ)を担当することも

「箸上げ」とは、料理を美味しそうに見せるための技術の一つ。
料理を箸やスプーンで持ち上げることで、視聴者に料理の質感や中身を臨場感たっぷりに見せることができます。
「一番美味しそうに見える一口」を箸やスプーンの上に作り出し、それを自然に持ち上げ、撮影中は動かないように上げたままキープする…と、言葉にすると簡単ですが、実際にやると全然簡単ではなく、技術と経験がものをいう高度な技です。
ただし「箸上げのプロ」という専門スタッフは存在しないので、ほとんどADが担当しています。
「一番美味しそうに見える一口」は、美しく盛り付けられた完成品をなるべく崩すことなく自然に作り出す必要があります。
例えば、カレーをスプーンであげるとしたら、ただルーだけが入ったスプーンより、お肉や野菜などの具が入っていた方が美味しそうに見えますよね。
かといってゴロゴロした具材をそのままいろいろ掬ってみても、スプーンの上が明らかに山盛りになってしまい、自然には見えないかもしれません。
こういう場合は、それぞれの具材をさらに小さく切って直接スプーンの上に仕込んでおいたり、彩りのあるものはその中でも目につく箇所に配置したり、ご飯も少しずつ一緒に掬ったりと、小さなスプーンの上に美味しそうに見える様々な工夫を散りばめます。
ただしその美味しそうな一口を作っている間にも料理は冷めていってしまいますので、のんびりはしていられません。
美味しそうなスプーンの準備が整ったら次は、自然に持ち上げます。
いざ、まっすぐ上に…上げれば、カメラは正面から撮っているので、残念ながらほとんど側面がうつることになってしまいます。
なので、ほんの少しだけスプーンの上をカメラ側に見せるように傾けながら上にあげるのですが、傾け過ぎれば不自然に見えてしまったり、何よりせっかく盛り付けた具材が、スプーンから溢れてしまいます。
気にするべきは角度だけではなく、カメラと自分の手元が上がっていくスピードが揃っていなければいけませんし、カメラと自分の手元が止まる高さやタイミングがずれてしまってもいけません。
箸上げの撮影はかなりズームされている状態が多いので、角度や速度・位置の調整は相当シビアです。
現場ではカメラの位置を意識して、掛け声をかけたりしながらカメラマンと息を合わせて、ピタッと揃うまで繰り返して調整します。
ただし何度もやり直している間にも料理は冷めていってしまいますので、時間との戦いです。
いざ上まで上がったら、カメラはさらにスプーン上にズームインして、スプーンの端から端までをゆっくり往復する絵を撮ったりします。
その間、手元が動かないように上げた状態のままキープするのですが、この時点では、かなりのヨリでの撮影になっているため、ほんの少しの震えでも大きな揺れに見えてしまいます。
生きている人間の手なので、全く震えないというのはかなり難しく、なるべく震えが抑えられるよう、息を止めたり、空いている手で肘や手首を押さえたり、本格的な撮影だと道具を使って手を固定する方法もありますが、じっと止まったまま、ゆっくりカメラが往復する時間は体感では相当長く感じられ、終盤で震えが強くなってしまい、またやり直すこともしばしば。
そしてやはり料理はどんどん冷めていってしまいます。
ちなみに料理が冷めてしまう、というのは、
厳密に温度が低くなることではなく、カメラに映る「料理の見た目」の温度を重視します。
例えば、料理の温かさを伝える代表とも言えるのが“湯気”。
湯気がなくなってしまうと、また温め直したり、最初の「美しく盛り付けられた完成品」を再現しなおしたりと、手間や待ち時間が発生し撮影が押してしまうこともあります。
そんな、限られた時間内で成功させたい…というスタッフ一同の無言の想いがプレッシャーとなり、また余計に緊張で手が震えたりします。

他業種で働いている友人と食事をした際に「あれってわざと震えさせてるの?なんで?」と悪気なく聞かれたときは、ガックリと肩を落としそうになったので、みなさんもテレビで震える箸上げを見た際は、ADさんが頑張っているんだ…と、ぜひ温かい目でご覧ください。
料理スキルは本当に必要ない?
結論:料理はしないが「理解」は必要

料理番組のADが実際に料理を作ることはありません。
しかしある程度の「理解」はあった方がよいでしょう。
調理工程への理解が浅すぎると、現場で知識のある人たちの会話についていけず、見通しを立てるのが難しくなったり、指示の意図をうまく汲み取れず段取りに支障が出たりと、現場がスムーズに回らなくなってしまいます。
逆に言えば、実際に自分では料理ができなくても、最低限の知識や流れの理解さえ追いついていれば問題ないと言えます。
料理が得意だと活きる場面
もちろん料理が得意な人はそのスキルを活かすことができないのかというと、決してそういうわけではありません。
盛り付けの感覚や食材の扱い方が分かっていることや、ちょっとした調理のお手伝いができることで、フーディーさんの負担を減らすこともできますし、行動や会話においてフーディーさんとのコミュニケーションが取りやすくなるため、現場の進行に大いに役立ちます。
料理番組のADが大変なところ
演者さんや収録現場を待たせることがないよう<ベストなタイミング>で、最も美味しそうに見える<ベストな状態の料理>を出す、という時間とクオリティの両立を目指すのは料理を扱う番組ならではの難しさがあります。
また、料理番組で怖いのは食材トラブル。
料理は時間が経つと見た目が変わってしまうため、冷めたり崩れたりすれば作り直しとなることもあります。
時間には限りがあり撮影は待ってくれませんし、珍しい食材を扱ったりすると予備などが確保できず、撮り直しができない場合も。
各所との連携や状況把握と同時に、食材の管理や料理を丁寧に扱うことも非常に重要となります。
料理番組のADに向いている人
料理番組のADには先を読んで動ける人が向いています。
前述の通り、段取りを組んだり、工程を先読みしたりする力が大切になってくるため、準備の段階から収録が終わるまで、細かい確認を怠らず、先を読んで行動できる人ほど活躍しやすい現場と言えるでしょう。
準備や細かい橋渡し役などが多いため、裏方として現場を支える役割にやりがいを感じられる人にオススメです。
これから料理番組ADを目指す人へ
大切なのは、料理スキルよりも「段取り力」と「現場理解」であり、この力は将来どんな仕事に進んでも必ず活かすことができます。
また、フーディーさんのような専門職のスタッフと一緒に番組を作る経験はテレビ業界に身を置く人にとってきっと大きな財産になります。
料理が苦手だからと言って、料理番組に携わることを諦める必要はありません。
まとめ
ADは料理を作ることはありませんが、番組を支えるのに欠かせないポジションです。
食材準備や段取り、物撮りや箸上げなど、細かな気配りや段取りで「一番美味しそうな瞬間」を支える重要な役割を担っています。
テレビ業界を目指す方で、料理番組の仕事に興味がある人は、料理ができる・できないに関わらず、選択肢の一つに加えてみてはいかがでしょうか。
