アシスタントディレクター(AD)の仕事は多岐にわたります。スケジュール管理や小道具準備、出演者対応などがありますが、その中でも必ず直面するのが 「精算業務」 です。精算は単なる事務作業ではなく、制作チーム全体のお金を預かる重要な役割であり、ADの評価に直結します。
お金を正しく扱えるADは「信頼できる人」と見なされ、逆にルーズなADは現場を任せてもらえなくなります。だからこそ、新人のうちから精算の基本を理解しておくことが大切です。
今回は、精算の基本から注意点、トラブル回避のコツまでをまとめました。
精算の基本ルール
制作スタッフが行う精算には大きく分けて2種類あり、「立替精算」と「仮払い精算」と呼ばれます。
立替精算
「立替精算」とは、自分のお財布から一時的に経費を支払い、後日会社に請求する方法です。
交通費や少額の消耗品購入の際に多い精算方法です。
仮払い精算
「仮払い精算」とは、撮影前に会社からまとまったお金を預かり、その中で支払う方法です。ロケ弁や宿泊費など高額な出費で使うことが多く、余ったお金は必ず返却します。
領収書の扱い方
立替精算でも仮払い精算でも必要なのが支払い時にもらう領収書です。
領収書の不備はトラブルのもと。次のポイントを必ず守りましょう。
- 宛名は会社名で(例:「○○株式会社」)
- 但し書きは具体的に
- 金額・日付が正確かをその場で確認
- 万一もらい忘れたら、すぐにお店にお願いして再発行してもらう
「領収書をもらい忘れた」は新人ADがよくやるミスです。領収書がなくて精算できない状況になってしまったら損をするのは自分なので必ず最後に確認しましょう。
精算書の書き方
精算方法は会社ごとに決まりが異なるかと思います。今回は「精算書」にまとめて精算を提出すると仮定します。
- 日付順に記入する
- 領収書の金額と突き合わせて確認
- 支出の目的を簡潔に書く(例:出演者昼食代、タクシー代)
- 領収書は整理して貼付する
見やすい精算書は上司からの信頼度を一気に高めます。
お金の使い方で気をつけること
お金を扱うということはトラブルの元にもなる危険があるということです。どんなに忙しくても慎重に扱いましょう。
公私混同は絶対NG
個人の買い物を一緒に精算しないことやプライベートの支払いと混ぜないことが大切です。
もし誤って番組の制作費を自分のために支払ってしまったら、正直に報告して処理すること。
隠すと信用を失います。
会社のお金という意識を持つ
仮払いで数十万円を預かることもありますが、それは「会社のお金」です。
必要以上に高額な商品を買わない、似たものを買うなら安い方を選ぶ、小銭までしっかり管理するなど、細かいところまで考えてお金を扱う意識を持ちましょう。
「お金に強いAD」はディレクターから重宝されます。
交通費の注意点
ロケや買い出しなどで毎日発生する交通費は管理することが大変です。
電車やバスの乗車区間は忘れないようメモしておくことや、ICカードの履歴を使うとスムーズなど、わからなくならないよう日々工夫が必要です。
高額移動は必ず事前に確認することや、タクシーは「必要な時だけ」使うなど、どの交通手段がベストなのか考えて動く必要があります。
飲食代や差し入れ
現場では出演者やスタッフの弁当・差し入れを購入することもあります。
「誰のために」「何の目的で」使ったかを明確にし、高額すぎるものは避ける、慣習や上司の判断に従うなど、その都度確認すると良いと思います。飲食関連は「節度」が大切です。
トラブル防止のポイント
お金にトラブルはつきものです。そんなトラブルを回避できるよう慎重に扱いましょう。
事前確認
高額な支払いは必ずディレクターやプロデューサーに確認しましょう。
「勝手に判断して使った」は一番嫌われます。
メモを残す
領収書に「誰の指示で、何のために使ったか」をメモしておくと後で混乱しません。
領収書の裏に書くことが一般的で、「裏書き」と呼ばれます。
仮払い残金の管理
余ったお金は封筒に入れて早めに返却しましょう。お財布に入れたままにしたりしていると紛失リスクがあり、紛失してしまったら自分が困ります。
こまめに精算する
領収書をため込むと「何の支払いか」忘れてしまうので、できるだけこまめに精算しましょう。面倒くさくても忙しいという理由で先延ばしにするとどんどん領収書が溜まって後悔します。
精算で評価されるADになる
精算は「お金を正しく処理する」だけではありません。上司は次の点を見ています。
- 領収書がきちんと整理されている → 段取り力
- 精算書が分かりやすい → 報告力
- 出費が妥当 → コスト意識
- 仮払いの残金の返却が早い → 責任感
お金をきっちり扱えるADは「この人なら大事な仕事を任せられる」と信頼され、次のチャンスにつながります。
よくある新人ADの失敗例
- 領収書をもらい忘れた
- 仮払い残金を返し忘れて上司に注意された
- 精算書が雑で金額が合わない
- 勝手にタクシーを使って怒られた
- 私用と混ざって説明できなくなった
など、どれも「ちょっとした不注意」から起こります。繰り返さないよう意識しましょう。
まとめ
ADがまず身につけるべき基本スキルのひとつが「精算業務」です。撮影現場やロケでは一日に何度もお金を使い、その度に領収書を受け取り、精算書に記録しなければなりません。最初は細かくて面倒に思えるかもしれませんが、この積み重ねが 「現場で信頼される人」 になる第一歩です。精算で大切なのは、単に金額を合わせることだけではありません。
- 正確さ ……数字や領収書の不備がないこと
- 透明性 ……何に使ったのか一目でわかること
- スピード ……残金や精算書をすぐ提出すること
- 責任感 ……「会社のお金を扱っている」という意識を持つこと
この4つを意識していれば、大きなミスを防げるだけでなく、先輩や上司からも「任せて安心」と思ってもらえるようになります。
特に新人ADは、ディレクターやプロデューサーから仕事ぶりを細かく見られています。映像制作の現場は常にバタバタしており、雑務を雑に片付けてしまいがちですが、その中で精算がきちんとできる人は「細部まで気を配れる人材」と評価されます。逆に、領収書をなくしたり、公私混同を疑われたりすると、信頼を取り戻すのは簡単ではありません。
お金の管理は「小さなこと」ではなく、「信用そのもの」です。信用があれば、次の現場でも安心して任せてもらえ、少しずつ責任の大きな仕事へとステップアップできます。つまり、精算の丁寧さは将来のキャリア形成にも直結しています。
最後に、新人ADへのアドバイスとして「精算は自分の評価を高めるチャンス」と捉えてください。数字を合わせる作業にとどまらず、現場を支え、上司に信頼されるための重要な任務だと思えば、モチベーションも変わるはずです。日々の精算を丁寧に行うことが、ディレクターやプロデューサーへの一番のアピールであり、自分の成長の土台になります。